
本編
その日、藤宮ましろは最悪だった。
放課後の補習で帰りが遅くなり、雨まで降っていた。コンビニで買った肉まんは落とすし、スマホの充電は三パーセント。おまけに、近道しようと通った古い団地の横道が、なんだか妙に静かだった。
「……帰りたい」
ぼそっと呟きながら、ましろは制服のポケットに手を突っ込む。
指先が、小さなきんちゃく袋に触れた。
黒地に赤い紐。中には小瓶が四つ入っている。
一つ目には犬の牙。二つ目には黒い蛇の脱皮殻。三つ目と四つ目には、乳歯みたいな小さな歯。
それぞれ、彼女の式神だった。
「お願いだから今日は平和に――」
ぴちゃん。
水音がした。
ましろは立ち止まる。
雨音とは違う。
もっと粘つくような、水音。
団地の階段下。薄暗いコンクリートの奥に、人影が立っていた。
背が高い。
細い。
妙に長い。
顔が見えない。
ましろの喉がひゅっと鳴った。
「……あっ、これダメなやつ」
人影が、ぐるりと首を回した。
骨が割れるみたいな音がする。
その瞬間。
スマホの画面が真っ黒になった。
「いやいやいやいや!」
ましろは半泣きで後ずさる。
影が一歩近づく。
ぺちゃ。
足音がおかしい。
水溜まりを踏む音じゃない。肉を踏むみたいな音だ。
「無理無理無理、今日ほんと無理!」
きんちゃく袋を掴み、紐を引く。
「来て、クロ!」
小瓶の蓋が、カチ、と鳴った。
次の瞬間。
黒い獣が地面から這い出た。
大型犬ほどの大きさ。毛並みは煤みたいに黒く、口が耳まで裂けている。
犬神――クロ。
クロは低く唸り、ましろの前に立った。
影が止まる。
空気が変わった。
湿った生臭さが強くなる。
ましろは涙目でクロの背中に隠れた。
「ね、ねぇ、あれ強いやつ?」
クロは振り向かない。
代わりに、尻尾がぴしりと揺れた。
あ、機嫌悪い。
ましろは察した。
影が、ゆっくり口を開く。
顔の真ん中が裂けた。
中には歯がぎっしり並んでいた。
「ヒッ」
その瞬間。
クロが消えた。
いや、速すぎて見えなかった。
バギン!!
と、鈍い音。
影の頭が九十度くらい変な方向へ曲がった。
「えっ」
クロはそのまま首元に噛みつき、乱暴に振り回す。
ベキベキベキッ!!
ものすごい音。
影は抵抗もできず、壁に叩きつけられた。
「……あれ?」
ましろが瞬きした瞬間。
影は、ぐしゃ、と崩れた。
黒い泥みたいになって、排水溝へ吸い込まれていく。
沈黙。
雨音だけが残る。
「……終わり?」
クロがふんっと鼻を鳴らした。
その時。
ぞわり、と首筋が粟立つ。
ましろの顔から血の気が引いた。
「……あ、まだいる」
団地の二階。
非常灯の赤い明かりの奥。
誰かが、いた。
今度は小さい。
子供くらい。
でも、頭が異様に大きい。
しかも逆さまに天井へ張りついている。
「やだぁ……」
べちゃり。
何か液体が落ちてきた。
ましろは反射的に後ろへ飛ぶ。
落ちた場所のアスファルトが、じゅうっと溶けた。
「酸!? 酸じゃん!!」
ぱにくるましろの肩に、ぺち、と小さな手が乗る。
「姉ちゃん、うるさい」
「敵に気づかれるだろ」
いつの間にか、童子が二人立っていた。
白髪の双子。
小学生くらいの姿で、揃いの着物を着ている。
式神の童子――白と黒。
「いやもう気づかれてる!」
「じゃ、やるか」
「兄ちゃん先行って」
「お前が行けよ」
喧嘩しながら、二人はふっと消えた。
直後。
二階から、ギャッ!? みたいな悲鳴。
どたどたどた!!
何かが転がり落ちる。
逆さの怪異が、階段を転げながら落ちてきた。
その顔面に。
白が貼りついていた。
「ほい封印」
ぺた。
お札を貼る。
怪異、停止。
黒がその頭を金属バットみたいな棒で殴った。
ゴッ。
怪異、爆散。
「雑魚だったな」
「最近こういうの多いよね」
ましろは口をぱくぱくさせた。
「えっ、終わり!? 今回めっちゃ早くない!?」
クロはもう欠伸している。
白が肩をすくめた。
「最初のやつ、見た目だけ」
「中身スカスカ」
「脅かし特化型だな」
「いや怖かったよ!?」
ましろは半泣きで叫んだ。
すると。
今まで静かだったきんちゃく袋の中から、しゃあ、と低い音がする。
蛇神だった。
瓶の中で黒い影が揺れている。
「あ」
ましろは固まる。
蛇神は、守備型。
つまり。
危険察知担当。
その蛇神が、今さら反応した。
全員が静止する。
沈黙。
その直後。
自販機の裏から、小さな白い何かが飛び出してきた。
「ニャー」
野良猫だった。
白と黒が吹き出した。
「なんだ猫かよ」
「ビビらせんなよ蛇」
しゃあああああっ!!
蛇神、キレる。
ましろはその場にしゃがみ込み、顔を覆った。
「もうやだ……帰りたい……」
クロはそんな彼女の横で、ちゃっかり白猫を尻尾で撫でていた。
今回もチャッピーが執筆
ビビりの女子高生で、こういう式神つかって、サクッと敵を倒す話を読みたいとチャッピーに投げて出来上がったのがこちらの作品。
そろそろ、もうちょっと細かいプロンプトを投げて作品を作ってみようかな。
この作品のキャラクター達は私の考えたホラー作品のキャラ達で、もうちょっと色々設定があります。
そこらへんを詰め込んで、長めの話を考えるのもいいかも。
そろそろチャッピーに中編を書いてもらうか考えている、マナでした。